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続「とりかへばや物語」時々「源氏」その4

永泉の大納言の語れる

 宇治の妹姫のおかげで、大変なことになってしまいました。
 しかし、遅かれ早かれこうなったのかもしれません。
 妹はまだ橘中納言を想っていたのですね……。確かに、入内が決まったときは、かなり悩んでいたようです。私の前で声をあげて泣くようなこともありました。でも、入内の決め手は、妹の言葉だったのですからね。自分で、入内する、と決めたのですから、友雅殿への想いは断ち切ったのだと思っていたのですよ。
 妹の決心のおかげで、摂関家として我が家も体面を保つことができて、父上も私たちの小さい頃からの悩みがなくなって安心されて、万事まるくおさまっていったわけですが。妹の産み参らせた一の宮は東宮に立たれましたしね。きっと、あのまま、東宮の内侍のまま、友雅殿を待っていたい気持ちもあったでしょうに、帝のご寵愛を受けたが為に、道を変えられてしまった。
 そういう意味では、妹はあわれです。
 わがままをきいてやりたいところですが……。宿下がり中に問題が起きては、お家の大事になります。
 ここは、見てみない振りをしておいてやることにしましょう。仮の里内裏でのこと、離れていれば見えも聞こえもしません。中宮様が自らはかってなさったこと。
 帝も、自分が友雅殿から妹を取り上げた形になっているのはご存じです。昔の恋人同士、間に子どももあること。宿下がり中に少々縒りがもどったとて……帝より、周りの方が気にするでしょうね。どちらにしろ、二人に悪いことにならないように、隠してやれることは隠してやりましょう。



あかねの中宮の語れる

 逃げるだなんて! そんな、友雅さん!
 お兄さまも、ここにいる間は好きにして良いって、羽目を外さなければ、守ってくださるって、おっしゃるのに……。だから、頼久も、黙って通してくれたでしょう?
 女房達は大丈夫。口の堅いのだけ、ここに仕えさせていますから。信頼できるものだけです。 だから、ねえ、逢いたいときにはここへ里下がりするのではいけない?
 ……そうね。帝がお許しくださらないわね。こんなことをして。
「私が先だよ、あかね。私があなたを見つけたのだよ。」
 でも……危険だわ。
「私より、帝を取るというのか……?」
 いいえ! 私は……。ずっとさがしてくださったあなたの気持ちはよくわかったわ。でも、あなたにも、こちらの妹姫とか、おありでしょう?
「また始まった。そうやって四の姫に気を遣ったから、あなたは今、苦しんでいるのだよ。たまには自分のことだけ考えてごらん。自分の幸せを。」
 私……友雅さんが好きだわ。帝のことは尊敬しているけれど……好きなのは、友雅さんだわ。待ちたくないのに、ずっと待っていた。あなたが私を見つけてくれるのを。何かをさがしてまるで様子が違ってしまった、と、鷹通さんが話していたわ。若君も、お父様は元気がない、と。お母様にお会いになれれば、元気になるのに、と。消息したい気持ちをずっと抑えていた。立場を考えてしまったから……。
 ねえ、私、もう、いいかしら。
 摂関家の姫の役割は、もう、終わりで良いかしら。
「宮様にはそれぞれ乳母がついている。母宮様のお手からは離れたのだよ。宇治の友成は、母無しでずっと育ってきた。友成に、母と呼ばせてやってはくれまいか。」
 ああ、友雅さん! そんなこと、言われては……。
 決めました。あなたと共に。どこまでも行くわ。



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